耳はスーパー精密機械

 

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音は空気の振動で伝わっている

 

 私たちは主に耳で音を聞いていますが、実は、耳以外でも音を知覚しています。

 

 誰でも、後ろから人が近づいてきたとき、足音がしなくても、ハッと気づいた経験があるはずです。

 

 これは、空気の振動を肌が感知して起こります。

 

 音とは、そもそも空気の振動のことです。

 

 水たまりに石を投げ込むと、そこから波が起こり、円を描いて拡散していきます。

 

 音が出ると空気の圧力が変わり、水たまりの波のように広がって伝わるのです。

 

 振動を伝えるのは空気だけではありません。

 

 水や金属、空気以外の気体でも、振動が伝わるものがあれば、音を聞くことができます。

 

 象は、地面を伝わる振動を足の裏でキャッチして、骨を通して耳でさまざまなことを聞き分けるといわれています。

 

 この能力で、何キロも離れた場所にいる、仲間とコミュニケーションをとったり、30キロ以上の距離がある土地の、雨などを知ったりしているのです。

 

 人間の骨も、音を伝える物質のひとつです。

 

 実は私たちは、骨に伝わる振動でも、音を聞いています。

 

 テープや映像に録音された自分の声が「普段、聞いているのと違う!」と思ったことはありませんか。

 

 これは、私たちは日常、空気を伝わる自分の声と、頭蓋骨の振動で伝わる自分の声を同時に聞いているのに、記録された声は、空気を伝わった音だけだからです。

 

 「骨伝導ヘッドホン」が開発されていることからも、骨からも音が伝わることがわかるでしょう。

 

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耳のしくみはこんなに精密!

 

 ではここで、耳のつくりと役目を簡単にご説明しましょう。

 

 耳は大きく、外耳、中耳、内耳の3つにわけられます。

 

 空気を伝わってきた音は、まず、外耳の「耳介」で集められます。

 

 耳に手をあてると、音が聞こえやすくなりませんか。

 

 この手と同じように、音を集める役目をしているのが、「耳介」です。

 

 「耳介」で集められた音は、「外耳道」を通ります。

 

 「外耳道」は、ラッパの管のように音を共鳴させ、一定の音域の音を増幅して聞きやすくして鼓膜に届けます。

 

 ちなみに、多くの人は「鼓膜」を、ピンと張りつめているものだと思っていますが、

 

 実は「鼓膜」は、音を集めやすいように、中耳に向かってへこむ、円錐形をしています。

 

 次に、「鼓膜」に伝わった音は、中耳の「耳小骨」(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)と呼ばれる、3つの小さな骨を振動させて、奥へと伝わっていきます。

 

 この3つの骨も、ただ音を送り込んでいるだけではありません。

 

 鼓膜の振動を、約3倍に増幅しているのです。

 

 大きくなった音は、カタツムリのからのように、渦をまいた形の「蝸牛」に伝わります。

 

 「蝸牛」の中はリンパ液に満たされており、音はこの水たまりを揺らします。

 

 すると、「蝸牛」の中にある、有毛細胞が刺激されて動き、電気信号を発生させます。

 

 そして、電気信号が脳に伝わることで、「音が聞こえる」のです。

 

 耳はこうして、外から見ているだけではわからない、複雑で精巧な働きを担っています。

 

 人間の体の中でも、飛び抜けてデリケートな、精密機械のひとつだといっていいでしょう。

 

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運動選手はなぜ目が回らない?

 

 内耳には、蝸牛のほかに、体の平衡感覚を司る働きをしている、「三半規管」と「前庭」があります。

 

 回転する動きは三半規管が、そして直線的な動きや重力などは、前庭にある耳石器が感知します。

 

 三半規管は、名前の通り、半円形をしたチューブ状の、3つの半規管です。

 

 三半規管の中は、リンパ液で満たされており、頭や体が回ると、リンパ液も動きます。

 

 そして、リンパ液の動きの速度や方向を感じ取った有毛細胞が、電気信号に変えて脳に伝えます。

 

 三半規管の中の、リンパ液の回転は、体が止まってもしばらくはそのままです。

 

そのため、回転していて急に止まると、目が回るのです。

 

遊園地にある、コーヒーカップを激しく回転させて、降りるときにフラフラしたことがある人もいるでしょう。

 

 ではなぜ、フィギュアスケートの選手のように、クルクルと回転し続けても、目が回らない人がいるのでしょう。

 

 それは、体を回転させるとき、リンパ液が回らないようにする頭の動かし方を身につけるからだといわれています。

 

 そのため、練習していない方向に回ると、やはり目が回るのだそうです。

 

 耳石器は、炭酸カルシウムでできた、2つの結晶で構成され、頭や体の傾きを感知します。

 

 頭や体を傾けたとき、この2つの結晶である耳石器がずれて、隣接する有毛細胞がそれを脳に伝えます。

 

 また、耳石器は、体の傾きだけでなく、重力や遠心力がかかったときもずれを生じ、体がどの方向に動いているのかを、有毛細胞に知らせます。

 

 こうして私たちは、三半規管と耳石器の働きにより、体のあらゆる方向の動きを感じとり、バランスを保っています。

 

 平衡感覚が乱れると、めまいや吐き気などの症状がでることがあります。

 

 車酔いの原因も、平衡感覚のバランスが崩れて起こるのではないかともいわれています。

 

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